「ボランティア もうひとつの情報社会」(金子郁容)

人と「つながる」ことの重要性

「ボランティア もうひとつの情報社会」
(金子郁容)岩波新書

「良い本」というのは、
「いつまでも良い本」のことではないかと
思います。
出版されたときには
大きな話題となっても、
1~2年もすれば
忘れ去られてしまう本が
たくさんあります。でも、
地道な輝きを持って存在感を
示している本も確かにあります。

本書はそうした本の一つです。
かれこ20数年前に手にして以来、
何度となく(部分的にですが)
読み返しています。
そしてそのたびに
「良い本」だという思いを深めています。
私は、あまり新書本については
読み返さないのですが、
本書は特別です。

「ボランティア」という
シンプルなタイトルのため、
もしかしたら内容について
誤解される可能性がありますが、
本書はボランティア活動の
ハウツー本などではありません。
「ネットワーク社会論」について
述べられた一冊であり、
その先駆け的存在なのです。
これから(出版当時の
1992年から見て)の社会は
ハードでもソフトでもない、
ネットワークの時代が来る。
その中でも人的ネットワークが
とりわけ重要となる。
その人的ネットワークを
形成しうるものが
「ボランティア」なのである、
ということなのです。

第一章 ボランティアの楽しさ
ここで筆者は
国内外の若者のボランティア、
それも地域社会を巻き込んだ
人的ネットワークの構築の成功例を
紹介し、その魅力を伝えています。

第二章 ボランティアのかかわり方
「ボランティアとは、
 困難な状況を「他人の問題」として
 自分から切り離したものとは
 みなさず、
 自分も困難を抱えるひとりとして
 その人に結びついているという
 「かかわり方」をし、
 その状況を改善すべく、働きかけ、
 「つながり」をつけようと
 行動する人である。」

筆者の考えるボランティアの本質が
端的に表されています。
この冒頭の一文を、
今も私は大切にしています。

第三章 つながりをつける
     ネットワーク・プロセス

筆者はここで再び事例を紹介し、
人と人が繋がる過程について
述べています。

第四章 本来的で豊かな関係性
ボランティアは本来、経済システムに
よらないものであること、
そしてそれがこれからの社会にとって
必要な関係であることを
説明しています。

第五章 もう一つの情報社会
ボランティアに対する
企業のかかわりについて示唆し、
来たるべき社会の姿について
提言しています。

本書を読んで
「ボランティアを始めよう」という
気持ちには、もしかしたら
ならないかも知れません。
しかし、
「人とつながることの重要性」について
じっくり考えるきっかけに
なるはずであり、若い人にとっては
貴重な読書経験になるものと考えます。

本書が出版されてからすでに28年。
スマホやラインでの
薄っぺらな「つながり」だけが
世の中に蔓延し、
筆者の説く本質的な「つながり」は
まだまだ社会に浸透していません。
未来へ羽ばたこうとしている
中学校3年生、そして高校生に
ぜひ読んで欲しい一冊です。

※調べたら、本書の一節が
 ある出版社の高校の国語の教科書に
 載っているようです。
 時代は少しだけ
 進んでいるようです。

(2020.5.14)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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